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渡邉

数学を捨てる代償は

更新日:2022年5月21日

こんにちはOne Bridge アカデミーです。



今回は主に文系志望の高校生に向けた内容です。



大学受験において圧倒的に高負担な科目、つまり多くの勉強時間を割かなければならない科目は英語と数学です

英語と数学を大学受験である程度戦えるレベルにするのには、他の科目よりも勉強量が必要です。

それ故、この2科は入試において大きな配点が与えられています。

また試験科目として重視されているということは、英語と数学はそれだけ暗記力・思考力・表現力が求められる科目だということでもあります。



英語・数学に国語を加えて、3科目あるいは主要科目と言われています。

たしかに国語が学力を測る上で重要な科目であることは間違いありません。

国語も英語・数学と同様に暗記力・思考力・表現力が求められます。

しかし、英語・数学と同列に語られるほど勉強時間が必要な科目ではありません。

国語力は受験勉強として特別に学ぶというよりも、受験学年までに触れた文章量自体に大きく規定されます。

付け加えるなら国語、その中でも最大の配点を占める現代文については、英語と数学の勉強をしていれば副次的に学力が身につくという点も特徴的です。

つまり、特別な対策をしなくともある程度のレベルには到達できる科目だということです。

文章に触れずに受験学年になってしまった場合は大変ですが。



さて、英語と数学に話を戻しますが、受験上この2科には大きな違いがあります。

それは「英語は捨てられないが、数学は捨てられる」という点です。

受験科目として数学は選ばないということができるんですね。

特に文系は、数学を必須科目とする大学が限られます。

文系で数学が必須なのは、国公立大と早稲田大の政治経済学部ぐらいしかありません。

さらにこの内、二次試験でも数学が必須であるのは国公立大の中のほんの一部に限られます。



なぜ文系は数学がいらないのか。

それは大学側の経営上の問題と関係しています。

数学は苦手と感じる人の多い科目です。

そんな苦手科目を必須科目としてしまうと、受験者自体が減ってしまうという事情があります。



たとえば2021年度入試から、早稲田大学の政治経済学部の入試が一次試験(共通テスト)で数学を必須としました。

とはいえ、その取り入れ方は限定的で、

  • ⅠA範囲のみ

  • 共通テストのみ

  • 配点は25/200でしかない

これだけ小規模にしか取り入れなかったにも関わらず、同学部の受験者は37%も減少しました。

数学必須化だけではなく、二次試験の英・国の融合問題の採用にも受験者減少の原因はあると思いますが、それにしてもな減りっぷりです。

早稲田大学の、それも政治経済学部を受験しようとする人たちが受験者ですから、英語・国語の実力は相当にある人受験生たちです。

そんな受験生たちが融合問題を恐れたとは考えにくいと思います。

つまり受験者減少の主な理由は、数学必須化にあると言えるでしょう。



この例が示すように、大学が数学を入試科目として課すと受験生は逃げます。

さらに現代の日本は少子化の時代です。

子ども自体の数が減っている状況で、受験者を減らすと大学がどうなるか。

合格偏差値が下がってしまいます

偏差値が下がると大学の評判が落ち、さらに受験生を減らすというスパイラルに陥ります。

それは大学の経営上、避けねばならない事態です。



このような事情から、文系の、特に私立大学は受験科目を減らしていきました。

入試科目を減らせば簡単に偏差値を上げられるからです。

ではどの科目を削ろうか。文系が最も避ける数学を削ろう。

となるわけです。

数学を削ることが最も効果的に偏差値を操作する手段なのです。



受験者の減少を予測しながらも、数学を必須化した早稲田大学政治経済学部はさすがだと思います。

経済学部は日本では文系の学部と位置付けられていますが、数学の知識が必要になります。

高校数学をまともにできない人が、大学の経済学の授業で何を学べるのでしょうか。

経済学史や経営史は学べるでしょうが、学問領域が大変狭まることは間違いありません。

教育機関としての役割に真摯な姿勢こそが、早稲田の早稲田たる所以なのだと感じます。





さて、ここからが本題です。

大学側の都合は受験生には関係ないですから、受験生にしてみれば大変な2科のうちの一方(しかも文系にとって苦手な数学を)を捨てられるというのは魅力的な選択のように思えます

捨ててしまえば数学にかける膨大な勉強時間を他の科目にまわせるからです。

実際にそのように考えて数学を捨てる受験生が文系にはたくさんいます。

しかし、そこには大きな罠が潜んでいます。

誰もが考えつくような都合のいい話はないんですね。



その罠というのは


  1. 英・社に勉強時間を全振りした人たちと競うことになる

  2. 特に社会は競争が激しく、得点調整で不利になる可能性が高い


それぞれ説明していきますね。



1.について


文系の多くの受験生が数学を捨てます。

そして彼らは英語と社会に勉強時間を全振りします。

特に社会は暗記科目ですから、勉強時間が物を言います。

その結果、必然的にこの2科目が十分にデキる人々の間で定員枠を奪い合うことになります。

前述しましたが、これが私大の文系学部の偏差値が高いことの背景にあります。



みんな楽な道を選びます。

その結果、楽であったはずの道がぎゅうぎゅうに詰まってしまって、中々目的地にたどり着けなくなってしまったんです。



「社会は暗記科目なんだから、やればできる」

それは正しいと思います。

しかしそれは自分以外のライバルにもあてはまります。

入試は相対評価ですから、人よりデキなくては合格はできないのです。

ですから、数学を捨てることによって受験自体が楽になるわけでは決してありません。





2.について


1.については解決可能な問題です。

こちらの記事で"倍率なんて関係ない"と述べた通りです。

競争が激しかろうが、人より点が取れれば合格できるのです。



しかしそれは得点調整のない入試に限ります。

大学受験は中学・高校受験と異なり、受験科目を選択できます。

多くの私立大では、同じ大学・同じ学部であっても好きな科目が選択できるんですね。

そして文系は英語・国語が必須科目で、さらに一科を社会・数学から選択できるという場合があります。

しかしこの科目選択入試は、科目間による有利・不利を調節する「得点調整」とセットだという点に注意しなければなりません。



たとえば・・・

A君:英語・国語・社会で受験し、合計点220点

B君:英語・国語・数学で受験し、合計点200点


得点調整が行われないと、もちろんA君の方が点数は上です。

しかし得点調整が行われると、B君の方が点数が上となる場合があるのです。



前述したように、社会科目は暗記さえしてしまえば得点できる科目です。

言い換えると、入試では多くの人が高得点を取る科目だということです。

その結果、平均点が数学と比べてずっと高くなってしまいます。



もちろん大学側も、高得点者ばかりになってしまって得点差ができない試験にならないように、入試問題をどんどん難しくします。

しかしそれでも社会という科目の性質上、結局知っているか知らないかで得点が決まってしまいますので、受験生にとってその対策は容易です。

受験生も負けじとどんどん細かいことまで覚えていきます。



得点調整の仕方については大学によって様々です。

しかし、自分の得点が「平均値や中央値からどれだけ離れているか」が重要であることは共通しています。

そうなると、平均点が高得点な科目は、

  • 平均点との差がつくりにくい

  • 低得点を取ってしまうと大きく不利になる

というデメリットが目立ってしまいます。

平均点が低い科目はその逆になります。



人気の私大は倍率が10倍を超えることも一般的です。

そうなると10人に1人しか合格できません。

つまり、母集団に混じってしまうような、"ふつう"な得点の人は合格できません。

母集団から突出しなければならない試験なのです。

そのような、"落とされない"ではなく"選ばれなければならない"試験において、母集団との差をどちらがつくりやすいかは明らかでしょう。



選択科目毎に合格者の定員が設けられている試験方式では、同科目受験者での競争(その場合も偏差値換算等による得点調整を行う場合があります)になるので、単に頑張れば合格できます。

しかし学部・学科全体の合格人数しか設けられていない試験方式の場合は、科目平均点という自分では解決することのできない壁があることを重々承知しておかなければなりません。






以上が文系受験生が数学を捨てることの代償です。

どうしても数学ができないという文系の人は、数学を捨てる方が受験上有利でしょう。

ダラダラと受験に使わない科目を勉強しても、それは受験を不利にするだけです。

しかし、そうではないという人は数学を捨てることのメリットがデメリットを上回るのかよく考えましょう。




これは肌感覚的ですが、

"MARCHまでは社会選択で十分に合格可能"

"早慶に社会選択で合格するのはむちゃくちゃ厳しい"

このような実感があります。



近年も社会選択の厳しさを再認識する機会がありました。


私の知るある受験生は英語と世界史が得意で、どちらの科目も駿台全国模試でコンスタントに偏差値70をとる子でした。

もちろん模試の判定は早慶どちらもA判定です。

本番でのデキも十分手応えはあったようです。

しかし結果として早慶に全落ちしてしまったのです。


このような恐るべき例があるから、安易に数学を捨てることに対して警鐘を鳴らしているのです。

科目は簡単に捨てられます。

それによるメリットもあるでしょう。

しかしその代償は大きい、というのが今回の主旨でした。




多方面で言われているように、世の中では数学的素養の重要性が増しつつあります。

文系だから数学はいらない、そのような認識のままでいては人生の様々な局面で不利益を被るかもしれません。

勉強が大変な科目だということを承知の上で言うのですが、生徒たちにはぜひ、小学・中学の早い段階から熱を入れて数学を勉強しておいて欲しいなと思います。




それでは失礼します。

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